職人インタビュー vol.9 本田圭乃
2022.06.08
鎌倉彫金工房の職人 vol.9
本田圭乃Kano Honda
3年前、愛媛から鎌倉彫金工房へやってきた本田。瀬戸内を思わせる穏やかな笑顔の裏でどこまでもストイックな努力を欠かさない彼女が、鎌倉彫金工房の職人になったきっかけや、どのような想いでお客様と、指輪と向き合っているか話を聞きました。
面接を受けるまで鎌倉に来たことすらなかった
実は彫金の仕事がしたいという気持ちはそこまでなかったんです。どんな仕事がしたいか分からずにいました。転職を考えた時、アクセサリーを手作りするのが好きで、人と話すことも好きで、じっとしているのが苦手で……それで選んだのが鎌倉彫金工房でした。
前職は地元の愛媛で、造船会社の事務や設計補助をしていました。愛媛の今治やしまなみ海道のあたりは造船業が盛んで、地元ではそこに勤めていれば間違いないと言われるほどメジャー。でも、新しいことにチャレンジしたくなったんですね。工房の面接を受けるまで鎌倉に来たことすらなかったので、落ちても一人旅できるしいいかなって(笑)
鎌倉へ引っ越し、工房で職人として勤め始めたのが3年前。現在は、お客様の接客とお預かりの加工をしています。
コミュニケーションが嘘にならないように
ブライダルを扱う人って丁寧でお堅いイメージがありました。はじめは先輩の丁寧な接客を真似してみたんですが、なかなかうまくいかなかった。試行錯誤を繰り返して、素に近い方がコミュニケーションも嘘にならないというか、自分に合っていることに気づいたんです。
思ったことを素直に伝えたほうが楽ですし、表情もともなうからお客様の反応も良くなった感じがしました。それまでは話すことを考えすぎて、セリフみたいになっていたんだと思います。
楽しみ方は一人ひとり違いますし、マニュアルがあるわけでもないので、他のスタッフのセリフを覚えておいて試して、自分に合っているなと思ったら採用したり。あとは、どうやって工夫しているか、先輩後輩問わず聞くようにしていますね。やり方や意識してることもスタッフごとに違うんですよ。新鮮で面白いです。
「あきらめなかったらできる」
指輪づくりに関しては、職人の中で私が一番上達に時間がかかっていると思います。曖昧なままにしておくのも嫌で、先輩に付き合ってもらいながら残ってやったりとかは未だにしますね。言い訳しているようで嫌ですが、左利きなんです。見て真似できない時がよくあるんですよね。道具によって同じ動きをするとかえって傷つけちゃうことがあったりもして。
ただ、先輩によく言われていたのが「あきらめなかったらできる」ということ。最初は何ができていないかも理解できないんですよ。傷があるね、と指摘されても見つけられない。でも分からないなりに続けていると、見える瞬間があるんです。
ある日、同じ先輩から「お客様が作業している音を聞くだけで、力の入り具合や削り具合が分かるようになる」というのを教わりました。最大4名様のサポートをしますから、ひとりだけを見ておくことはできない。だから音を聞け、ということなんですが、最初は音を聞く余裕すらありませんでした。今では分かるようになって、音を聞いて削りすぎていると思ったらちょっと力を抜いてみましょうとお声掛けしたり、できている方にはいいですね、とお伝えするようにしています。
音もそうですが、やった分だけ結果が返ってくるから嬉しい。そうやって上達に時間をかけた分、左利きのお客様にコツをお伝えしやすいのも自分だと思っています。まだまだ全然及ばないですが、私の強みになっている気がしますね。
面白いと思っていることが伝わると嬉しい
やりがいは、その場でお客様の反応が見られること。完成して綺麗だなとか、楽しかったとか。大丈夫かなと心配されていた方に自信がついたのとか、黙々と熱中してくださる姿とかを見られるのがやりがいです。自分が面白いと思っていることだから、人に伝わると嬉しいなと思います。その分責任を伴うので当然怖いですけどね。
これからも努力を怠らない、おごらない人でありたいです。上手くなってもいろいろ挑戦し続けたい。あとは引き続き、作ることを楽しむ。初心を大切に仕事をしたいと思います。
本田のおすすめリングは

つちめの模様はその場でひとつしか作れないですし、個性が出るのでおすすめ。つちめは凹凸があって苦手な方もいらっしゃるんですが、ヘアラインを入れると柔らかく落ち着いた印象になるので、つけやすくなると思います。キラキラ光りすぎるのが苦手という方にもおすすめしたいです!